お味はいかが?

 白いテーブルクロスが敷かれた正方形のテーブルで向かい合って食事をする。それが、スカサハとシャナンの日常だ。
 スカサハの前には、いつもシャナンの二倍は食事が置かれる。成長期に急速に増えた食事量は身長が止まってからも減らずに維持されていた。
「シャナン様、美味しいですね」
 スカサハはシャナンが食べ始めたのを見てから、同じものを食べた。昔から不思議に思っていた行動が、今はしっくり馴染む。馴染むどころか愛おしくすらあった。二人の関係が、ただの従兄弟から恋人へと形を変えたからかもしれない。
「ああ、美味いな」
 頷くと、スカサハがパンをちぎった。スープを飲むときはスプーンを奥から手前へ掬うように動かし、ステーキの肉は一口目を食べるときに残りも全て切っている。食事の癖が、二人はそっくりだった。
 シャナンの目の前の皿が空になったとき、スカサハはちょうど残り一切れのステーキを大きな口で頬張るところだった。唇の少し下には、その前につけただろうソースが残っている。
 不規則に口を動かして咀嚼するのを見届けてから、シャナンは自身の唇の下、ちょうどスカサハの顔にソースがついているあたりを指さした。
 水を飲んでいたスカサハが、シャナンの仕草に気づく。口内に含んでいた水を一回で飲み干して、何故かテーブルの上に身を乗り出してきた。
 そのまま唇が塞がれる。無邪気に笑いかけられてシャナンは困惑した。
「あなたからねだってくるなんて、珍しいですね」
「……ここにソースがついていると伝えたつもりだったのだが」
 スカサハは丸く目を見開いてから、指で口を拭った。拭った後の指を見つめて、スカサハは残念そうにため息をついた。
「なんだ、今日はいい日だと思ったのに」
 心底落胆した様子のスカサハに、シャナンの中で悪戯心が芽生えた。
「スカサハ」
 もう一度、先刻と同じ場所を指でさす。顔を上げたスカサハは、少し頬を膨らませ、顔をそらした。
「もうその手には引っかかりませんよ」
 テーブルナプキンを口に当てて、入念に口元を拭う仕草が、随分と愛らくみえる。スカサハは、拭った後のナプキンを眺めて首を傾げていた。しばらくして、からかわれたことに気づいたらしく、恨みがましげな視線をシャナンに向けてきた。予想通りの反応に口角が自然と上がる。
「今度は誘ったつもりだったのだが」
「それなら、あなたからしてくださいよ」
 不貞腐れて尖った唇を、スカサハが人差し指で二回叩いた。
「いいだろう」
 シャナンは身を乗り出してスカサハに口づけた。獣の味と香ばしいソースの味が口いっぱいに広がった。
「これで、いい日になるか?」
 訊ねても、スカサハはまだ納得していない様子で唇を尖らせていた。
「二回もからかわれたので足りません」
「それは残念だったな」
「俺の待ってる言葉、わかってますよね?」
「どうだろうな」
「あなたから誘ってください」
 あまり意地悪をしても後が怖い。シャナンは程よいタイミングを見計らって、スカサハの待つ言葉を囁いた。
「今から部屋に来るか?」
「行きます」
 食いつくように目を輝かせるスカサハに、シャナンはもう一度口づけた。
 ごちそうさまでした。だいぶ前に空っぽになった皿を見ながら、二人揃って手を合わせ席を立った。手と手を絡ませ、部屋までの道のりを進む。スカサハの大きく温かな手を、シャナンは強く握った。