男は止まらない。矛盾した正義を貫くために。
深町先生の『ヘルドッグス』をようやく読了しました!
久々に治安悪い感じの小説読みましたが、やはり、スパイとか潜入捜査官の話はいいですね。
主人公の兼高は暴力団組織に潜入する潜入捜査官。
いつ正体がバレて死ぬかもわからない環境、悪を裁くために殺しをする矛盾、自身を取り巻く環境に苦悩しながらも、ただ信じる正義のために任務を押し進めていた。
※ここから内容のネタバレを含みます
まず、兼高とシリアルキラー室岡のコンビがいいですね。殺しをしても何一つ動じない室岡という男のサイコパスを存分に感じさせてくる。
そして、どんなにイカれたクズ野郎でも、共に過ごした日々は愛着を育んでしまう。
終盤、兼高が警察と通じていると知った室岡の、兄貴を慕う気持ちと、そんな兄貴が自分が嫌う警官と知った時の反応がたまりません……。
「えげつねえケンカしやがって……ホントは嘘なんだろ。警官なんて」
「警官だよ」
「……名前を教えろ」
「出月梧郎。おれの名だ」
「警官らしい……クソみてえな名前だ……兼高昭吾のほうが、ずっと様になっている」
文庫本517ページのこの会話が、この二人の信頼を本当によく表している会話だと思います。
室岡を殺した後、兼高は上を向いて涙を堪えます。
だって、相棒だったんです、二人は。
どんなに兼高……出月が嫌う悪党だとしても、共に日々を過ごして兼高として育んできた絆は消えない。
共に死地を乗り越えてきた、かけがえのない存在だったんですよ。
ここの何がいいって、シリアルキラーで女子供ですら的確に痛ぶりそうな室岡が、兄貴に対してだけは大好きな肉も喉を通らなくなるほど精神的に参るんです。
それが、終盤の十朱との場面にもつながっていく。
読者としては、もう物語が始まった時に兼高が警官だと知っているので、こんな場面があることくらい想像はついてるんですよ。
想像はついていたのに、気持ち揺さぶられる。
それが本当にすごいと思います。
感涙。
兼高と室岡の話しかしてませんが、他にも名場面たくさんありました……。
土岐を手にかける場面とかね。
個人的には序盤のエンジンかかるまでがちょっと退屈でしたが、それでも、面白かったです。
やっぱり、男の熱い友情と決別みたいな話っていいですね。