感想

壬生義士伝の感想

歪んだ武士社会に、真っ向から立ち向かう侍がいた。

言わずと知れた名作、浅田次郎先生の『壬生義士伝』を読了しました!
※内容バレ配慮なしで感想を書き連ねます。

叫ばせてください。
大野次郎右衛門〜!!!

この作品は、吉村貫一郎という新撰組隊士の人生を伝聞という形で露わにしていく形態をとっているのですが、読み終わった後の感想は大野次郎右衛門と叫ぶことしかできませんでした。

大野次郎右衛門は、吉村貫一郎の親友であり御組頭です。
昔は吉村貫一郎と共に寺子屋で学びを深めていたのが、ひょんなことから2人の間には身分差が生まれてしまったのでした。

このね、次郎衛さんが本当に誤解されやすい方なんです。
すごく苦しい思いをして、心を鬼にして親友に腹切れって命じた次郎衛さんの苦労は、本当に一部の人にしか伝わっていない。多くの人からは、次郎衛さんは悪者扱い。今まで南部の人々の命を背負って懸命に財政を立て直してきたのに、苦悩は理解されません。つらすぎる。

貫一郎さんも、本当にカッコ良い生き様でした。
本物の南部武士でござんした。
私は、池田さんが語りの時に言っていた貫一郎さんへ向けた言葉が大好きです。

長い武士の世の中が続くうちに、侍の体にべたべたとまとわりついてきた嘘や飾りを、きれいに取っ払っちまえば、侍はああなるんです。
貫一郎さんの慕われる人柄とか、飾らない感じとかを一番よく映した言葉だと思います。

それから、好きな場面のお話も。
蝦夷に向かう嘉一郎(貫一郎の息子)と、それを見送る千秋(次郎衛の息子)が手盃を交わそうとするシーン。
死にに行く嘉一郎の手盃を飲もうとしてできなかった千秋に、嘉一郎が何遍も何遍も名前を……御組頭様ではなく、ちあき、と昔の呼び方で呼びかける場面が本当に美しかった。
身分差の友情の美しさが、子供の間にも成立しているやりきれなさ。

あと、やりきれない気持ちが他にも。
父は誰も斬っていない刀を息子に残そうと、欠けて折れての刀で腹を斬った。それなのに、息子は父が大好きだから一人で三途の川を渡らせたくないと、後を追いかけて、父の贈った刀を持って戦場に行ってしまうんです。
親の心子知らずだとは思うけれど、嘉一郎の行動を誰が責めることできましょうか。
辛すぎる……。

書いていたらまた涙がこぼれてきてしまったので、この辺りで切り上げようと思います。

この作品に出会えてよかった。

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