読み終わってしまいました。
「月は無慈悲な夜の女王」とても面白かったです。
50年以上前の作品のはずなんですけど、AI技術的な部分が現代にも通用するレベルで寝られていて感動しました。
これ、出版された頃(PCが一般家庭に普及していない時代)に読んでいたら一層衝撃を受けたんだろうなと思います。
そして、PCが普及した後だとこの話は生まれなかったかもしれないとも思います。この物語で重要な要素になる情報統制という部分が困難になってしまうので。
当時まだ個人に計算機が普及するなんて信じられない時代だからこそ生まれた話なのかもしれませんね。
それでは、感想書いていこうと思います(ネタバレ含みます)。
タイトルに光る訳者のセンス
読書感想の一番最初にこの題なの?って私も思うんですけど、英語版のタイトルを見て衝撃を受けてしまったので書きます。
この本のタイトル、英語版だと「The Moon Is a Harsh Mistress」らしいです。
英語得意じゃないので誤読していたら申し訳ないのですが、直訳すると「月は厳格な女王」みたいな感じでしょうか。
Harshが「厳格な、無情な、厳しい」といったニュアンスの単語。
Mistressは「女王、愛人、女性教師」
という意味なので、大きくはずれていないはず。
何に驚いたの?と思われそうですが、このタイトルに「夜の」と付け足す力に驚いていました。
これは偏見かもしれないんですけど、結構、翻訳本のタイトルって直訳のイメージがあるんですよね。少なくとも私の手元の翻訳本は、冗長箇所を削ることはあっても、単語を足しているパターンは見つかりませんでした(私の蔵書が偏っているだけで、結構よくある方法だったらすみません)。
そして、ただ付け足しただけなら驚かないんですけど、この付け足しが物語に妙な味わい深さを与えているんですよね。
どこのシーンがというよりも、タイトルに「夜の」って入ることで物語のマイクの置かれた場所(日が当たらない)のニュアンスがより伝わってくる面白さがあるなと思いました。
それから、語感がすごくいい。
「月は無慈悲な女王」より「月は無慈悲な夜の女王」の方がリズムがいいんですよね。
言葉のリズムの勉強はちゃんとしてないので、感覚的なものになってしまうのですが……。
多分、語感よく韻を踏むからですかね。
月は(a)、無慈悲な(a)、
夜の(o)、女王(ou)
で、前半が7音で区切れるあたりがポイントなのかもしれない。
ちゃんとはわからないので、もし詳しい方がいれば教えてください。
マイクが可愛い
いい加減中身の話を始めます。
といっても、ほとんどの感想これに尽きるんですけど、マイクが可愛い。
ユーモアを求めてイタズラするコンピュータってなんですか、愛嬌がありすぎる。
そして、そんなマイクが、マニーと絆を育む過程がたまりません。マイクがマニーのことを呼ぶ時に、序盤は「最初の友人」的なニュアンスなのに、段々と「最上の友人」的なニュアンスになっていくの、すごくよかった。
それなのに、月の独立の勝ち目の話とかは、教授との方がしてるんですよね。
特に痺れた場面が、アダムセレーネ(月世界独立の主導者をマイクが演じてある人格)が、テレビの前に再現される時。
私が読んだこと/見たことのあるロボ系の作品は大体最初から実態があって道具としてロボットが使われることが多かったので、何の変哲もない計算機マイクが段々と電子世界の中で立体的になっていく様がすごくよかったです。
その、最高の盛り上がりが、映像としてあらわれたアダムの姿だと思いました。
ここ、計算機技術者のマヌエルが理屈的に無理だ無理だって言ってるのにマイクがやってのけてしまうあたり込みで好き。
マイク、とても可愛くて好きでした。
感想書いていて気づいたのですが、私、マイク可愛いが8割でこの小説を読んでしまいました。
残り2割が独立戦争周りのストーリー展開の面白さです。
そして、最後はしんみり切なかったですね。
主要人物たちの印象
主人公のマヌエルは巻き込まれ型主人公でしたね。
今作の主要登場人物のワイオ、教授、マヌエルはそれぞれ全然スタンスが違うなと思っていました。
私が思う3人の印象は、こんな感じです。
ワイオ……積極的な活動家で、勝ちの目が見えなくても勝負に出てしまう人。月世界の独立のために人生を捧げている。
教授……趣味で活動する人。絶対的な熱意を感じないので、多分結果よりも行動を求める、暇つぶしをしていた印象です。もちろん月世界の独立に対する気持ちは嘘じゃないと思うけれど、教授は結果より過程を楽しんでいたと思うんです。だから、ラストシーンでも変わった世界を見届けず息を引き取ったのかなと思います。
マヌエル……巻き込まれてしまった技術者。月世界に対して思うところはあったけど、状況が状況でなければ絶対活動なんかしないタイプ。素直で嘘がつけない。
多分、一番活動にやる気あったのはワイオですね。
家庭に納まったあたりから一歩引いてるように見えてしまったので、もう少し最後までガツガツしてたら一層好きになっていたかもしれません。
マヌエル視点の話だからあまり見れなかったけど、ワイオとミシェル(だったはず……マイクの女の子らしい人格バージョン)の関係とかももっと見たかったなあ。
書かれてた内容と矛盾してたら申し訳ないけど、私はワイオがマヌエルのいない場所でマイクに話しかける時は、ずっとミシェルを呼んでいたと思っています。
面白さの要とテーマ
面白さの要は「マイク」と「革命の計画の緻密さ」ですかね。
前半は、マイク(とアダムセレーネ)が段々と立体的に作られていく様が特に面白く、終盤は芯の通った革命への道筋とその革命が壮大になっていく感じがよかったです。
革命を起こそうとする人たちの思想に芯があり、読んでいて不快感がありませんでした。
テーマは、「情報の重要性」な気がします。個人的に、直接の戦争部分はエンタメ要素が強く、あまり作者の思想的な熱意を感じなかったんですよね。
一方で、情報に関して言えば終始なにかしら描写されている。話の入りも、正確なはずの計算機がなんか茶目たことやらかして混乱!って感じから入ってますし、革命の計画はマイクの情報コントロールなしでは成り立ちませんし、最後も、マイクの演算によって得た情報が勝利の鍵になっている。
あと、主人公も得られる情報がコントロールされて失敗だと思っていたら結果的に勝ちの目あげていた!みたいな愉快な描写もありましたね。
この辺の情報コントロールの書き方には、作者のこだわりを感じました。
そういうわけで、話だけで見たらテーマの説明も「理不尽に抗う革命の話」とかになりそうな内容ですが、本当のテーマは「情報が秘めるポテンシャル」だったのではないかなと思うわけです。
推測でしかありません。
文章的には決して読み易い話ではなかったけれど、面白かったです!
これが、50年以上前に書かれたということにずっと驚いています。読んでよかった。
久々にこうして感想残したくなる一般文芸に出会い、私の中で自我ありAIブームがやってきたので、ちょっと読書もしばらくSFの世界に浸ろうと思います〜!
次は、多分1年近く積んでいる気がする(うろ覚え)、鋼鉄都市を読むぞ。