剣は口よりも雄弁にその人を物語ることがある。オグマと最初に剣を交わした時、そこにあったのは諦念だった。
ホリンは最初、己の感覚を疑った。長い手足、研ぎ澄まされた剣技、自信に満ちて然るべき男が、どうしてこうも己を諦められるのかがわからなかった。彼と違い、ホリンは己を誇っていた。大義のない虚しさに気づくまで、人生を費やした剣技を得意に思っていた。
出会って間もないが、ホリンはオグマのことを少し羨ましくも思っていた。ホリンもシグルド軍で最も長身だったほどの大男だが、オグマはさらに、指の幅にして一、二本分、背が高かった。長身により得られる間合いの有利、軽々しい大剣の扱い、それらによって生まれる剣士としての安定感が彼にはある。ホリンが闘技場の門を叩いたころ、闘技場で一番強いと言われていた剣闘士を思い出させるたくましさだ。ホリンとはついに一度も戦うことなく引退されたが、何度も目にして対戦を心待ちにした力強さを、彼の目は確かに覚えていた。
だが、そうした力強さの中では異質なほど、オグマの剣はオグマ自身を否定し、彼を損なっていた。実力の話や動きの話ではない。剣に宿る感情が、振り下ろされた力強さからでは信じられないほどに女々しかったのだ。
驚きを胸のうちにしまいこみながらオグマを見据えると、彼もまた複雑な顔をしていた。ホリンの剣から感じ取ったものが、彼の中にあった印象に反していたのだろう。闘技場にいたころも、実力がある者ほど同じ反応を見せることがあった。
それもそのはずだ。訳あって離れたとはいえ、ホリンの剣はソファラ王家の剣だ。闘技場にいる男たちではまず持つはずのない整いすぎた剣技に、実践の中で磨かれた荒々しさを継ぎ足したのがホリンの剣だった。
「形は違うが、思い出すな」
オグマがのそりとつぶやいた。話しかけているのかも、ひとりごとかも判断がつかない声量だった。
「お前のその剣技はなんだ」
「知りたければ俺に勝て」
「……わかった」
口下手な剣士二人、無言で剣を交わす。互いに汗が滲み、腕に傷がつき、剣を構える動作が重くなっても、決着はつかなかった。
日が沈みかけ、互いに互いを睨みすえて、剣を構えなおす
「これで最後だ」
「異論はない」
同時に息を吸って、吐いて、止める。
感覚の鈍ってきた足で地を蹴った。
ホリンの剣は、あと少しのところで届かなかった。
「……俺以外が相手なら、お前の剣が先に届いただろう」
「だろうな」
オグマとホリンは当然のように共に酒場へ行き、ホリンはそこで出自を隠しながら、約束どおり剣の話だけをした。
「お前の剣は王家の剣だったのか……」
「そういうお前は生粋の剣闘士の戦い方だな」
オグマは左右非対称な顔で、困ったように笑った。
「……ああ、そうだ」
気のせいかもしれないが、オグマがホリンを見る目には、少し遠くのものを見る時の気配が混ざるようになっていた。
彼から感じた諦念の答えはここにあるのだろうと、ホリンは思う。
彼は変えられない過去を呪っているのだ。
そしてそれは、剣を交わしたとはいえ出会ったばかりの男が立ち寄っていい領域ではない。
何か言葉をかける代わりに、ホリンは空になったオグマのジョッキを見て追加の酒を注文した。
口下手な二人
