ノールが仕事を終えて外に出ると、すでに夕陽が沈みかけていた。最近は、厚手のローブを身に纏っても、やや肌寒さを感じるようになってきた。
デュッセルが今日は早く帰れそうだと言っていたことを思い出し、急ぎ足で帰路を進む。
けれど、帰り着いた家は暗かった。
——また、誰かの相談に乗っているのでしょうか。
二人で食べようと買った焼き菓子に視線を落とすと、途端に寂しさがわきあがった。
デュッセルと共に暮らし始めて五年。最初は人の気配があることに落ち着かなかったノールも、すっかり人の温もりを覚えてしまった。
主の喪失から立ち直れずにいるノールがそれでも日々を正しく生きているのは、心優しいデュッセルを心配させないためだった。そうでなければ、今頃——。
想像しかけて頭をふる。存在しない未来を考えすぎるのはノールの悪い癖だ。
部屋の明かりをつけて、暖炉に火をくべた。一人で暮らしていた時は一度も使わなかった暖炉も、デュッセルと暮らすようになってからは毎年活躍している。デュッセルが意外と寒がりなのだ。
暖炉に火をつけた後は、食事を用意した。食事ははやく帰宅した方がつくると決めている。おかげで、料理の腕も五年前と比べれば随分と上達していた。特に、デュッセルの好きなシチューは、ほぼ失敗せずに作れるようになった。
食事がもうすぐ完成しそうな頃に、ちょうど扉の開く音がした。
ノールは鍋を火から離して、急いで玄関へ向かった。
「ノールすまぬ、遅くなった」
デュッセルが寒そうに身を震わせた。外套に薄く雪がつもっている。
「初雪ですか。今年は早いですね」
「わしも驚いた」
「風邪をひくといけませんから、先に着替えてきてください」
「いつもすまないな。たまにはそなたの帰りを待てると良いのだが……」
「ええ、楽しみにしています。今晩はシチューですよ」
伝えると、デュッセルはまるで子供のように嬉しそうな顔をした。
「それは楽しみだ」
ノールは、すっかり減ってしまった暖炉の薪を足してから食事をよそった。それから、食卓の中央に小皿を出して、買ってきた焼き菓子を並べる。焼き菓子も、デュッセルと暮らすようになってから、喜ぶ顔見たさについ買ってしまうようになったものだ。
「美味しそうだ。菓子もあるとは嬉しいな」
すっかり寛いだ姿になったデュッセルがテーブルの上を見てまた子供のように笑う。
「では、いただきますか」
「うむ、いただこう」
二人で手を合わせてから、シチューをすくった。
この時間こそが、今、ノールを繋ぎ止めるすべてだった。