01 初めての告白
スカサハは、かねてから胸の内に燻らせ続けた恋心に決着をつけようとしていた。今度こそ、シャナン様に告白をする。
決意から二ヶ月。スカサハは公園の木を相手に告白の練習を続けていた。五十回目の練習を終え、明日こそは本人に伝えると誓ったのが昨日。それなのに、どうしてかスカサハはまた木の前にいた。
仕方ないじゃないか。勢いよく玄関を飛び出して歩くうちに、辿り着いてしまったのだから。
もう二百年は生きていそうな巨木がスカサハを見下ろす。駄目だ、怖くなってきた。シャナンのことを考えると、途端に気が弱くなった。足が情けなく震える。やっぱりあと五十回は練習してからにしよう。
五回目も、十回目も、二十五回目の時も、そうして告白を先延ばしにした。どうにもならないとわかっているのに、そうすることが正解に思えて止められなかった。
スカサハは大きく息を吸って木に話しかけた。
「付き合ってください」
当然ながら、返事はない。そこらに落ちている石を流れるように蹴る。これも、いつものことだった。スカサハだって、本当は本人に伝えたいのだ。
転がる石を目で追うと、見慣れた黒い鼻緒の草履が視界に入った。
心臓がドキリと跳ねた。聞き馴染んだ声が鼓膜を震えさせた。
「なんだスカサハ、ついに好きなやつでもできたのか」
凛々しい佇まい。艶のある長い黒髪。不器用な優しさを孕んだ瞳。まさにスカサハが告白しようとした相手がそこにいた。
「しゃしゃっ、しゃ、シャナン様」
吃りながらよろめくと、背後の木にぶつかった。頭に枝が落ちた。
「痛っ」
たまらず呻くと、シャナンが心配そうに駆け寄ってきた。
「大丈夫か、スカサハ。少し落ち着いたらどうだ。それから、様呼びは勘弁してくれ」
大丈夫なはずがない。落ち着けるわけもない。よりにもよって、本人に聞かれたなんて。
スカサハは混乱していた。シャナンから意識を逸らそうと上を向いた。いつもの木がスカサハを見下ろしている。
「つ、付き合ってください」
それは反射だった。練習を重ねすぎて、焦った頭が咄嗟にした判断。音にしてから自分の発言に気づいて顔に熱が集まった。
どうしよう。言ってしまった。
スカサハがぎゅっと目を瞑ると、無骨だが温かい手が頭を撫でた。
「落ち着きなさい。言う相手を間違えているぞ」
その言葉は、スカサハに安心と虚しさをぶつけてきた。忘れていた。昔からシャナンが鈍感であることを。
——間違えてません。
心の中でだけ言い返して、スカサハはため息をついた。これを五十二回目の練習に数えるべきなのか、なんて場違いな疑問を抱きながら。