「シャナン様、お茶会に行きませんか」
昼食を食べたばかりのまどろみの時間。スカサハから突然の誘いを受けたとき、シャナンは馴染みない言葉に戸惑った。
「茶会……か?」
「はい、茶会です」
「そういえば、最近シグルド殿が増えて茶会をしていると聞いたな」
数日前、召喚士が突然「茶会だ、茶会しかない」と言って英雄を呼び出したという話は、すでにアスク中の噂になっていた。
「不思議な世界ですよね。ラクチェも二人いるからややこしくて……」
確かにややこしいと頷きながら、シャナンは少し前のスカサハの失敗を思い出した。この世界に来たばかりの時、彼は母親をラクチェと見間違えて気安く話しかけたという。
本人も気にしていることだと理解はしているが、つい芽生えた悪戯心が消えない。
「お前にとっては三人じゃないか?」
からかって笑うと、スカサハは子供らしく唇を尖らせた。
「ひどいですよ! 俺、結構気にしてるのに。ラクチェもシャナン様も、最近はマリータまで揶揄って……」
「はは、すまないな。それで茶会だったか」
「はい。今からラクチェと行こうと思っているんです。それで、よければシャナン様もご一緒に、と思っていたのですが……」
と、スカサハが不安そうに奥を見た。スカサハが訪ねてくるまで読んでいた書物が気になったのだろう。
穏やかな時間が増えたこともあり、最近シャナンはよき王になるべく学びを深めている。オイフェの不在が悔やまれるが、書物から得る知識も中々に興味深い。
「お忙しいでしょうか?」
「いや、たまには悪くない。付き合おう」
たったそれだけで、スカサハの顔が分かりやすくほころぶ。彼は、イザークの剣士にしては表情が豊かだった。そんな彼の性質をシャナンは好ましく思っている。
「それで、ラクチェはどこにいるんだ?」
「ああ、ラクチェはかあさ……、可愛い姿で行きたいからと、気合を入れて準備しているんです。少しだけ待っていただけませんか」
「そ、そうか」
ラクチェはアイラよりもおしゃれを好んでいる節はあるが、それでも必要以上に着飾ることは滅多にない。
もしかしたら、茶会特有のマナーがあるのかもしれない。流儀はわからないが、スカサハも少しは気を遣った方がいいのではないだろうか。彼はいかにも質素な青年らしい質素な服装をしている。
共にいながらスカサハに恥をかかせるのはしのびない。
「スカサハ、ラクチェが戻るまで買い物にいくぞ」
「え、何を買うんですか?」
「茶会へ行くんだ。少しは身だしなみに気を遣わねばならないだろう」
まだ状況を理解してないスカサハの手を掴む。行き先も告げずに引っ張ると、スカサハはおそるおそると握り返してきた。