スカシャナと雨(進む先を見失った結果やおい文だけが残った)
鏡のように空を映していた湖に、波紋が浮かんだ。ぽつり、ぽつりとその数は増え、静けさの代わりに轟々と雨が降り注いだ。
すっかり濡れぼそったまま城に帰ったスカサハを、シャナンは心配そうに出迎えた。肌に張り付いたシャツを脱ぎ、受け取った白い布で髪と体を拭う。廊下に水の筋を残しながら部屋に向かうと、シャナンは片手に桶を抱えてついてきた。
「災難だったな」
シャナンは、スカサハの窓で外を眺めながら呟いた。外は突然の雨が幻であったかのように眩しい。窓ガラスに残る水跡と、木から滴る雫だけが辛うじて雨の名残を留めていた。
「俺、雨男なんですかね」
スカサハは、着ていたシャツを桶の上で絞った。少し力を入れただけで、薄灰色の水が桶の底を埋めた。
最近は出かけるたびに雨に降られるせいか、シャツを絞る動きが妙に小慣れている。本当はズボンも脱いで水気を切りたかったが、シャナンがそばにいる状態で全てを脱ぐのは気が引けた。
「前はそんなことなかっただろう」
「むしろ、シャナン様の方がよく降られてましたよね」
ティルナノグでは、先ほどスカサハが見舞われたような突発的な豪雨はほとんどなかった。それにも関わらず、シャナンが雨に遭い、長い髪から水を滴らせ帰宅する姿がスカサハには強く印象づいている。それも、シャナンだけだ。オイフェや一緒に育った兄弟のような仲間たちは(記憶にないだけで実際は何度か降られているのだろうが)雨で全身を濡らす姿を見たことがなかった。
「ああ、ティルナノグの頃か」
シャナンは目を細めてつぶやいた。記憶を懐かしむように、口角があがる。
「あの頃はわざと降られていたんだよ」
「わざと……ですか?」
「雨にうたれるのが好きだったからな」
「うたれた後、面倒くさくないですか?」
すっかりシャツを絞り終えたスカサハは、観念してズボンを脱ぎながら訊ねた。
「その面倒くささが好きだったんだ」
「今は……」
途中で鼻がむず痒くなり、手のひらで顔を覆った。くしゅん、と大きすぎず小さすぎないくしゃみをした。
「風邪をひかないようにしろよ」
シャナンは話の続きは終わりだと言いたげに、乾いたタオルをスカサハの肩にかけた。寂しげな後ろ姿がスカサハの部屋を去る。
「面倒くささが好き、か」
衣服と体を拭いたタオルから絞りでた水は、桶に足を入れたら足の甲まで浸りそうなほど溜まっていた。
#聖戦トラキア畳む
鏡のように空を映していた湖に、波紋が浮かんだ。ぽつり、ぽつりとその数は増え、静けさの代わりに轟々と雨が降り注いだ。
すっかり濡れぼそったまま城に帰ったスカサハを、シャナンは心配そうに出迎えた。肌に張り付いたシャツを脱ぎ、受け取った白い布で髪と体を拭う。廊下に水の筋を残しながら部屋に向かうと、シャナンは片手に桶を抱えてついてきた。
「災難だったな」
シャナンは、スカサハの窓で外を眺めながら呟いた。外は突然の雨が幻であったかのように眩しい。窓ガラスに残る水跡と、木から滴る雫だけが辛うじて雨の名残を留めていた。
「俺、雨男なんですかね」
スカサハは、着ていたシャツを桶の上で絞った。少し力を入れただけで、薄灰色の水が桶の底を埋めた。
最近は出かけるたびに雨に降られるせいか、シャツを絞る動きが妙に小慣れている。本当はズボンも脱いで水気を切りたかったが、シャナンがそばにいる状態で全てを脱ぐのは気が引けた。
「前はそんなことなかっただろう」
「むしろ、シャナン様の方がよく降られてましたよね」
ティルナノグでは、先ほどスカサハが見舞われたような突発的な豪雨はほとんどなかった。それにも関わらず、シャナンが雨に遭い、長い髪から水を滴らせ帰宅する姿がスカサハには強く印象づいている。それも、シャナンだけだ。オイフェや一緒に育った兄弟のような仲間たちは(記憶にないだけで実際は何度か降られているのだろうが)雨で全身を濡らす姿を見たことがなかった。
「ああ、ティルナノグの頃か」
シャナンは目を細めてつぶやいた。記憶を懐かしむように、口角があがる。
「あの頃はわざと降られていたんだよ」
「わざと……ですか?」
「雨にうたれるのが好きだったからな」
「うたれた後、面倒くさくないですか?」
すっかりシャツを絞り終えたスカサハは、観念してズボンを脱ぎながら訊ねた。
「その面倒くささが好きだったんだ」
「今は……」
途中で鼻がむず痒くなり、手のひらで顔を覆った。くしゅん、と大きすぎず小さすぎないくしゃみをした。
「風邪をひかないようにしろよ」
シャナンは話の続きは終わりだと言いたげに、乾いたタオルをスカサハの肩にかけた。寂しげな後ろ姿がスカサハの部屋を去る。
「面倒くささが好き、か」
衣服と体を拭いたタオルから絞りでた水は、桶に足を入れたら足の甲まで浸りそうなほど溜まっていた。
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らくがき小話 セリスとシャナン
シャナンは黄金色の山を眺めていた。山の先端にはまだうっすらと雪の名残がある。その上を一羽の鳥が飛んでいた。豆粒のように小さく見える鳥は、山の奥へ向かっているようだった。
「こいつもイード砂漠へ向かうのだろうか」
シャナンはわずかな親しみをこめて呟やいた。風に流された髪を耳にかける。頬に触れた手がすっかり冷えていた。
城へ戻るため踵を返すと、道の先にセリスが立っていた。寂しげな笑みを浮かべている
「セリス、何か用か?」
「やっぱり、バルムンクを取りに行くつもりなんだ」
批難するような声だった。シャナンは曖昧に視線を逸らした。そのままセリスの横を通ろうとして腕を掴まれた。手首から少しずつ体温が奪われていく。あまりの手の冷たさに、セリスはずっと後をつけていたのだろうと思った。
「どうしてオイフェにも相談せず決めたの。みんな心配しているよ」
「その必要がなかったからだ」
「……シャナンがそうなったのって、ラクチェとスカサハが殺されそうになった時からだよね」
セリスの手は小刻みに震えていた。
「あれは、シャナンのせいじゃない。むしろ、助けに来てくれたことに二人は感謝している」
シャナンは伏し目がちに首を横に振った。
(危険な目にあわせた時点で、私の過失だ……)
シャナンには託された者としての責任がある。果たすべき贖罪がある。ラクチェとスカサハの事件は、弛んでいた気持ちを締めつけ、そのことを再認識するきっかけだった。
「セリス、すまない。わかってくれ。私はおまえの両親と交わした約束を果たすためにも行かねばならないのだ」
掴まれた手を振り解いて、シャナンは歩みを再開した。どれだけ進んでもセリスが後ろをついてくる気配はなかった。
我慢ならず振り向いた先で、セリスは一歩も動かずに立ち尽くしていた。シャナンは一度引き返し、力なく垂れ下がる腕を掴んだ。冷えきった手にセリスの体温を感じた。
「帰るぞ。もうすぐ暗くなる」
「うん……。シャナンごめんね。危険な旅に一人で向かわせるようなことになって、ごめん」
「決めたのは私だ。それに、詫びねばならないのも私のほうだ……」
シャナンは呟いてから、胸中に渦巻く想いを堪えるように下唇を噛んだ。
#聖戦トラキア
畳む
シャナンは黄金色の山を眺めていた。山の先端にはまだうっすらと雪の名残がある。その上を一羽の鳥が飛んでいた。豆粒のように小さく見える鳥は、山の奥へ向かっているようだった。
「こいつもイード砂漠へ向かうのだろうか」
シャナンはわずかな親しみをこめて呟やいた。風に流された髪を耳にかける。頬に触れた手がすっかり冷えていた。
城へ戻るため踵を返すと、道の先にセリスが立っていた。寂しげな笑みを浮かべている
「セリス、何か用か?」
「やっぱり、バルムンクを取りに行くつもりなんだ」
批難するような声だった。シャナンは曖昧に視線を逸らした。そのままセリスの横を通ろうとして腕を掴まれた。手首から少しずつ体温が奪われていく。あまりの手の冷たさに、セリスはずっと後をつけていたのだろうと思った。
「どうしてオイフェにも相談せず決めたの。みんな心配しているよ」
「その必要がなかったからだ」
「……シャナンがそうなったのって、ラクチェとスカサハが殺されそうになった時からだよね」
セリスの手は小刻みに震えていた。
「あれは、シャナンのせいじゃない。むしろ、助けに来てくれたことに二人は感謝している」
シャナンは伏し目がちに首を横に振った。
(危険な目にあわせた時点で、私の過失だ……)
シャナンには託された者としての責任がある。果たすべき贖罪がある。ラクチェとスカサハの事件は、弛んでいた気持ちを締めつけ、そのことを再認識するきっかけだった。
「セリス、すまない。わかってくれ。私はおまえの両親と交わした約束を果たすためにも行かねばならないのだ」
掴まれた手を振り解いて、シャナンは歩みを再開した。どれだけ進んでもセリスが後ろをついてくる気配はなかった。
我慢ならず振り向いた先で、セリスは一歩も動かずに立ち尽くしていた。シャナンは一度引き返し、力なく垂れ下がる腕を掴んだ。冷えきった手にセリスの体温を感じた。
「帰るぞ。もうすぐ暗くなる」
「うん……。シャナンごめんね。危険な旅に一人で向かわせるようなことになって、ごめん」
「決めたのは私だ。それに、詫びねばならないのも私のほうだ……」
シャナンは呟いてから、胸中に渦巻く想いを堪えるように下唇を噛んだ。
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畳む
暗夜のシナリオネタバレ(嘘でしょ?)
死後世界での会話を入れたかったんだろう感で追加されてる、闇落ちタクミネタめちゃくちゃ面白い😂(こういう変な読み方してしまったせいで、何も感動できなかったが……)
タクミ、抱きしめたいね。畳む
死後世界での会話を入れたかったんだろう感で追加されてる、闇落ちタクミネタめちゃくちゃ面白い😂(こういう変な読み方してしまったせいで、何も感動できなかったが……)
タクミ、抱きしめたいね。畳む
無意識にタクミとレオンの結婚相手を同じ女にしてた話
同じ女=アクアさんなんですけど、無意識怖い。というか、レオンに至ってはカムイとだと血筋怪しいし、スズカムも見たいから違う人と結婚させるか〜でコレしてるんで救いようがない。
カムイと結婚するより血を怪しくしてどうする!
話それますが、タクミというど受けみたいな男からキサラギくんとかいう攻めの権化生まれてくるのも笑ったけど、レオンの息子がフォレオくんなのも中々に面白いな。
レオンくん家臣の癖の強さは受け入れるのに息子の女装にめちゃくちゃ否定的なのなぜ?って思ったけど、「女みたい」と言われることある自分のコンプレックスのかわいいお顔を息子が受け入れるどころか活かしてるところに色々刺激されたんだろうな〜。
まあ、自分の非を認めてちゃんとフォレオくんを受け入れるレオンさんでよかったです。
最後にめちゃくちゃ最低なこと言いますが、フォレジク(フォレオ攻)萌えますね。こうして人は罪を重ねる。
以上現場からの中継でした❣️
#if畳む
同じ女=アクアさんなんですけど、無意識怖い。というか、レオンに至ってはカムイとだと血筋怪しいし、スズカムも見たいから違う人と結婚させるか〜でコレしてるんで救いようがない。
カムイと結婚するより血を怪しくしてどうする!
話それますが、タクミというど受けみたいな男からキサラギくんとかいう攻めの権化生まれてくるのも笑ったけど、レオンの息子がフォレオくんなのも中々に面白いな。
レオンくん家臣の癖の強さは受け入れるのに息子の女装にめちゃくちゃ否定的なのなぜ?って思ったけど、「女みたい」と言われることある自分のコンプレックスのかわいいお顔を息子が受け入れるどころか活かしてるところに色々刺激されたんだろうな〜。
まあ、自分の非を認めてちゃんとフォレオくんを受け入れるレオンさんでよかったです。
最後にめちゃくちゃ最低なこと言いますが、フォレジク(フォレオ攻)萌えますね。こうして人は罪を重ねる。
以上現場からの中継でした❣️
#if畳む
戦乱が落ち着き、ガルグマグの拠点から戦地を共にした仲間が離れつつある中、イングリットもガラテア領に戻る準備を進めていた。
出立前日、フェリクスとお気に入りの串焼きを満喫した帰り道。突然「ついてこい」とだけ言ったフェリクスに連れられて、喫茶店に入った。
喫茶店の入り口には洒落た装丁の本が並び、店内にはテフと爽やかな木の香りが漂っていた。
入って奥の窓際の席に案内されると、注文をする前からミントティーがでてきた。
「もしかして、予約していたの?」
「ああ」
いつにも増してフェリクスの口数は少ない。思えば、串焼き屋で肉を頬張っている時から、イングリットばかりが話をしていた。
「今日はいつも以上に無口ね」
「ああ」
「もしかして、言いづらいことでもある?」
「後で話す」
フェリクスは品のある所作で茶器を手に取り茶を啜った。その様子を見届けてからイングリットも続く。
「……美味しい」
呟いたイングリットを見つめる褐色の瞳は、かつての婚約者が向けたような慈愛にあふれていた。
結局フェリクスの伝えたかったこともわからないまま、喫茶店を離れた。満月の夜を進み、ガルグマグ大修道院まであと五分ほどで着くかどうかといった林道でフェリクスは足を止めた。
「……話がある」
凛と伸びた背筋、朱に染まった頬。月光に照らされて輝く褐色の瞳はまっすぐにイングリットを捉えていた。
イングリットも背を正しフェリクスと向き合うと、フェリクスは数回深呼吸してから切り出した。
「……受け取れ。俺とフラリダリウスに来い」
ぶっきらぼうに投げられた小箱を手に取ると、フェリクスの髪と同じ色をした宝石のあしらわれた指輪が入っていた。
「ちょっと、フェリクス。こんな、大事なものを投げるなんて……」
「それで、来るのか? 来ないのか?」
「行くわ。貴方って私がいないとダメそうだもの」
#風花雪月
畳む