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70 FE

発掘された婚約指輪投げて寄越すフェリのフェリイン

戦乱が落ち着き、ガルグマグの拠点から戦地を共にした仲間が離れつつある中、イングリットもガラテア領に戻る準備を進めていた。
出立前日、フェリクスとお気に入りの串焼きを満喫した帰り道。突然「ついてこい」とだけ言ったフェリクスに連れられて、喫茶店に入った。
喫茶店の入り口には洒落た装丁の本が並び、店内にはテフと爽やかな木の香りが漂っていた。
入って奥の窓際の席に案内されると、注文をする前からミントティーがでてきた。
「もしかして、予約していたの?」
「ああ」
いつにも増してフェリクスの口数は少ない。思えば、串焼き屋で肉を頬張っている時から、イングリットばかりが話をしていた。
「今日はいつも以上に無口ね」
「ああ」
「もしかして、言いづらいことでもある?」
「後で話す」
フェリクスは品のある所作で茶器を手に取り茶を啜った。その様子を見届けてからイングリットも続く。
「……美味しい」
呟いたイングリットを見つめる褐色の瞳は、かつての婚約者が向けたような慈愛にあふれていた。

結局フェリクスの伝えたかったこともわからないまま、喫茶店を離れた。満月の夜を進み、ガルグマグ大修道院まであと五分ほどで着くかどうかといった林道でフェリクスは足を止めた。
「……話がある」
凛と伸びた背筋、朱に染まった頬。月光に照らされて輝く褐色の瞳はまっすぐにイングリットを捉えていた。
イングリットも背を正しフェリクスと向き合うと、フェリクスは数回深呼吸してから切り出した。
「……受け取れ。俺とフラリダリウスに来い」
ぶっきらぼうに投げられた小箱を手に取ると、フェリクスの髪と同じ色をした宝石のあしらわれた指輪が入っていた。
「ちょっと、フェリクス。こんな、大事なものを投げるなんて……」
「それで、来るのか? 来ないのか?」
「行くわ。貴方って私がいないとダメそうだもの」

#風花雪月畳む

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